2024.6.22

店主の小咄 vol.8 | 昭和の版ズレ少女たち 

【藤田つぐみ 画家・ROD GALLERYディレクター】

京橋にROD GALLERYがオープンして一年が過ぎました。この界隈ではまだ少ないコンテンポラリーアートギャラリーです。私は画家兼ROD GALLERYの展示企画ディレクションをしています。

古美術や骨董品が集まるこのエリアは縄文時代、弥生時代に作られたもの、中国の歴史をまず学ぶところから始まるような歴史的な作品の数々など、置かれている物たちの持つ波動で特殊な磁場を放っている気がします。

そのような作品と比べるとつい昨日の事のように新しい年代のものになりますが、最近1940-1960 年代頃の紙の着せ替え人形を使ってコラージュ作品を作っています。

私の父が生前、戦前戦後のおもちゃを取り扱う仕事をしており本人もコレクターだったのでそうしたおもちゃに囲まれて育ちました。実家にたくさん紙の着せ替え人形があるのでそれを使ってコラージュを始めたのがきっかけです。

台紙からカッターで着せ替え人形を切り抜くのですが、同じ図像の台紙が何枚もあって、よく見ると一枚ごとに版ズレの具合が違っていて、重なっているもの、大きくズレているもの、色自体が反転のようにおかしくなっているものなど、まるで一点もののような大量印刷物です。

同じ図像の少女たちが少しずつズレていて、そっくりだけどちょっと違うさながらパラレルワールドの様相。花嫁さんの口の印刷がズレてあっかんべーをしているように見えるものもあったり、現在の印刷物にはない偶然性が大量印刷物に個性を持たせています。

少しずつ異なる印刷

▲少しずつ異なる印刷

▲印刷のズレた花嫁さん

 今となっては作者不明の当時のイラストレーターたちが描いた着せ替え人形をピンセットで配置しながら、作者の異なるイラスト同士の組み合わせ、図像に合わせて舞台となる背景を考えるなどしているとおそらくもうこの世にはいないそのイラストレーターたちと時間を超えたコラボレーションをしているような気分になります。

古美術、骨董となるとさらにその時間の幅が広がるわけですが、時間を超えて遙か遠くにある文化や暮らしが今そこにあって触れられる、という貴重なロマンがそこにはありますね。

なくしてしまいそうに小さいグリコの古いオマケ玩具も、割れずにいてくれたアール・ヌーヴォーの美しい陶磁器も、繊細な羊皮紙の時祷書も歴史的、金銭的価値の差に関わらずその時代がかつて存在していたことを示す証拠品のように、現代に遺され文化の中に刻まれていきます。

個人単位においても作家が作品を制作していくことは小さな美術史を刻んでいくことと同じです。

芸術は長く人生は短し。実家の物置から紙張りパネルの上に棲家を移された着せ替え人形たちを眺めながら、そんなことをぼんやり想っています。

作品:「魔球」180㎜×140㎜ 紙 パネル アクリル絵の具 コラージュ

作品:「羊羹を買いに」180㎜×140㎜ 紙 パネル アクリル絵の具 コラージュ

 

【藤田つぐみ 画家・ROD GALLERYディレクター】 

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ROD GALLERY

11:00 - 19:00
〒104-0031 東京都中央区京橋2-7-12 1F
1F, 2-7-12 Kyobashi, Chuo-ku, Tokyo 104-0031
TEL:03-3561-2277
WEB:http://www.rodgallery.jp/
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「店主の小咄」では、アートなこの街で店を構える個性的な店主たちの寄稿文を掲載しています。美術のこと、まちのこと等、興味のある内容があればぜひ店主のお店を訪ねて話を聞いてみて下さい。

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