2024.3.16

店主の小咄 vol.7 | 三彩浄瓶、真物?偽物?

三彩浄瓶

三彩浄瓶

【鈴木 泉】 

最近、骨董雑誌の広告やインターネット上のホームページやオークション等で数多くの中国古陶磁の贋作を目にします。

まさに贋作天国と言っていいくらいです。唐三彩の壷や馬のがんさくを一万、二万円で売るのはまぁかわいいとして、中には出来の良い贋作を巧妙な手口で初心者や素人に売りつける悪徳業者もおります。

それでは、素人が贋作に引っかからない方法はないものでしょうか?ひとつだけあります。それは買わない事です。冗談のように聞こえますが、やはり目の利く信頼のおける業者から買うのが一番安全だと思います。(但し、この世界には自称目利きがたくさんおりますのでご注意下さい。)一流と言われる業者は豊富な経験はもちろんのこと、日々審美眼を磨くべく大変な努力をしております。また、何よりも信用を大切にしておりますのでお客様に意識的に贋作を売るような事は決してありません。

 しかし、どんな目利きでも時として失敗をすることがありますので、いわんや素人をやです。

 さて、写真の三彩浄瓶ですが業者の交換会に出品され、真贋をめぐって仲間内で意見が二つに割れました。悪いと言う人曰く「盛唐期の唐三彩を狙った贋作。この緑釉の色は盛唐期にはない。それに形がいかにも日本人好みだし。」良い人曰く(但し、こちらの方が少数でしたが)「盛唐の物ではなく、晩唐から五代にかけての物で粗悪品が多い中でこれだけの優品はなかなかない。」

実はこの品物私が15年前に香港で200万円で購入し東京の一流業者に交換会にて200万円で買って頂いた品です。それが廻りに廻って私のところに帰ってきたのですが、さすがに贋作だと思う業者が多く落札価格はなんと15万円でした。自分では晩唐五代の名品だと思っておりましたが、はっきりしない物をお客様に売れませんので科学的時代測定法に頼るべく香港に持ち込みました。皆さんは熱ルミネッセンス法をご存じですか?簡単に説明しますと大気中には常に放射線が放出されており、陶磁器が焼成されると同時に放射線の吸収が開始されます。放射線吸収蓄積量は焼成後の陶磁器の古さに比例しますので陶磁器からパウダーを採取し、それを測定器にかけ陶磁器がどれくらい放射線を蓄積しているかを測定することにより焼成年代を判定する方法です。尚、陶磁器に再度熱を加えると今まで蓄積された放射線が消滅してしまいゼロにリセットされ、再び放射線の吸収が始まります。

この熱ルミネッセンス法は最近では研究者の努力により精度が上がり大分正確になってはきたもののまだまだ100%とは言えません。

出土品の洗浄や補修のため熱を加えた事により実際の年代からかなりかけ離れた測定値が出たりすることもあります。

測定値をなるべく正確に近づけるには出土地を特定しなければなりません。なぜなら場所によって放射線の放出量が異なるからです。

漢や唐の時代の陶磁器では前後200年程度の誤差が生じます。また陶磁器の一部をパウダー採取のためドリルで穴を開けなければならず、品物によっては古美術的価値を著しく損なう場合もあります。検査費用も3500香港ドル(日本円で55000円程度)かかります。

20年程前に一般に向け香港大学により始められましたが現在ではポピュラーなようです。欧米では清朝磁器類を除く古陶磁にこの熱ルミネッセンス法による鑑定を要求する買い手が多く明らかに真物だと判る物にも当検査がなされ少々あきれる事があります。

三彩浄瓶の検査は800年前から1300年前と出ました。真物と判定されホッと胸をなでおろしたと同時にどのくらいの値段で売ろうかと期待に胸を膨らませております。

  

この記事は古美術・骨董の情報誌「小さな蕾」2006年2月号に掲載されたものです。18年経った今日、本品は晩唐ではなく初唐の三彩と思われます。古美術商として己の眼力に甘んじることなく弛まぬ研究・努力が必要と実感させられました

【鈴木 泉】 

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古美術いづみ GALLERY IZUMI

12時~18時
東京都中央区京橋2-6-8 孤松庵ビル1階
Koshoan bldg. 1F. 2-6-8 Kyobashi, Chuo-ku, Tokyo
TEL:03-3567-1034
WEB:https://www.kobijutsuizumi.com/
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「店主の小咄」では、アートなこの街で店を構える個性的な店主たちの寄稿文を掲載しています。美術のこと、まちのこと等、興味のある内容があればぜひ店主のお店を訪ねて話を聞いてみて下さい。

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