2024.2.5
『京橋アート・アベニュー』第8回 中国美術の魅力とは?京橋で見つけた平野古陶軒の世界
中央エフエムHello! Radio City「京橋アート・アベニュー」
第8回1月24日(水)放送
出演者 平野古陶軒 平野龍一様
ナビゲーター:JUMIさん
*本記事は中央エフエムさんに許可をいただき、収録内容を書き起こして編集したものです。
個人商店の個性が活きる京橋の街
JUMI
Hello! Radio City京橋ア―ト・アベニュー、皆さん中央区京橋には日本一のアート街があることをご存知ですか? いにしえから現代まで多彩なアートの魅力を発信する街。ここは約150ものギャラリーが集う日本有数の美術街なんです。
江戸時代からアートと所縁が深くて、美術館級のお宝から、ご家庭で楽しむアートまで何でも揃うアートの街。そんな京橋にお店を構える京橋のプロたちを月替わりでご招待して、アートの街の魅力を語っていただきます。
それではまいりましょう、京橋アート・アベニュー。
今日スタジオにお招きしましたのは、平野古陶軒の平野龍一さんです。
よろしくお願いいたします。
平野
初めまして、平野でございます。
JUMI
平野古陶軒さんは、京橋2-11-10にあるのですが…
平野
はい、表からは分かりづらい奥まったところに店がございます。
JUMI
そんな平野さん、この京橋という街には、どんな思いを持っていらっしゃるのでしょうか。
平野
京橋に店を構えたのは、15年くらい前です。その間にサザビーズという会社にも行っているのですが、なぜ京橋を選んだかというと、銀座と日本橋という大きな町の間に、小さな個人商店がたくさん集まっている場所だったので、自分の魅力をきちっと発揮できれば、というのが一つのきっかけになっていました。もちろん昔から古美術商の集まった町でもあったので、その両方が大きな要因ですね。
JUMI
なるほど。小さなお店が集まって一つのカテゴリーを形成している街って、世界中にいくつかあるけど、みんなキラキラと輝いてますよね。
平野
そうですね。やっぱりそれぞれの個性の違いがわかりやすいですし、お客さんもワンストップで色々なところが見れるのはすごく便利に感じるんじゃないかなと思いまして。
京橋は、そういう意味でとても魅力的だし、我々の分野だけじゃなくて、飲食店も老舗なんかがあって、すごく便利な場所だと思います。
バラエティ豊かでグローバルな中国美術の世界
JUMI
平野古陶軒としては、実は平野さんで3代目でいらっしゃる。
平野
はい、そうです。
JUMI
お爺様の代からということですけれども、どんな作品を扱ってらっしゃるのか、そして3代目としてはどんなことを今考えてらっしゃるのか教えていただいていいでしょうか。
平野
うちの創業が昭和11年2月26日で、まさに二・二六事件の日なのです。
JUMI
ということは、当日は雪が降っていたということでしょうか。
平野
創業は大阪なのです。当時は通信手段が発達していなかったので、東京で大事件が起こっていると、流れてきました。だけどその日にオープンして、大阪では何事もなかったように、全部売れたと祖父から聞いたことがあります。
JUMI
そうでしたか。歴史に残る日だったのですね。
平野
そうなんですよね。
うちは長く中国美術を中心に扱っていますが、皆さんあまり馴染みがなく、美術館でもよくわからないと思います。陶器があったりとか、中華屋さんでギラギラしてるようなやつだろうというイメージがあると思うのですが、意外とものすごくバラエティーがあります。時代も、4000年くらいの時代がありますし、陶磁器もあれば、金属もあれば、他のいろんな素材もあるので、バラエティーがすごく多いのです。そして一番面白いのは、市場がグローバルなことです。
JUMI
どういう意味なのでしょう?
平野
どうも古美術って、一部の中国と日本だけというイメージが強いかもしれないですが、私の仕事だと、例えばニューヨークのコレクターとか、ロンドンのキュレーターとか、中国市場というのは比較的、欧米と、あと台湾、香港、今ですと中国本土も入るので、仕事がとてもグローバルなんですよね。
JUMI
先ほどもおっしゃっていましたが、この京橋という小さい街の中にお店を構えていらっしゃるけれども、実はその先は世界へ向かっていて広い世界だと。
平野
そうです。ものすごく広がっているのですが、世界中に広がったマニアックな人たちの集まりなのです。だから、登場人物は実はすごく少ないわけですよ。
JUMI
みんなあちこちに散らばっていると?
平野
全人口をカバーしてるわけではなくて、散らばって起きています。それは実に魅力的で、実に色々な知識が入ってくる面白い分野なんですよ。
JUMI
なるほど。
平野さんがおっしゃっていたように、中国4000年というような歴史の中の美術品を扱ってらっしゃるわけですけれども、それは私達から見ると、よほどの知識がないと、美術品に触れることや、まして自分のものにするってなかなか難しいのではないかと思ってしまいます。この点についてはどう思われますか?
平野
いや、多分本当に難しいと思います。
だからこそ我々のようなプロが、知識とか、いつの時代なのか、どうしてこれが作られたのかということをご説明するのが役目なのです。だけどお客様にとっては、その知識を持ってではなくて、自らの感性で物を選んでもらいたいと私は思います。
JUMI
私達は自分なりの感性を持って選べばいいのでしょうか?
平野
はい、もう本当にそれだけ。
例えば、感性にプロがいるのかというと、そんなことはないのですよ。
ものすごく比喩でわかりにくい話ですけど、運動神経って、皆さんそれぞれじゃないですか。
JUMI
そうですね。
ちょっとここで話はずれますが、平野さんはめちゃくちゃ運動ができそうで、すごく鍛えていらっしゃるように見えますけど、これもやはり、一つの個性ですよね。
平野
全然違う話なんですけど、ずっとトライアスロンしてまして。
JUMI
何と!それは、今欲しているものが「自分の体を鍛えること」だとするならば、同じように美術を見るときに「これを自分で学んで知って、できれば自分のものにしたい」と思うこと、これも一つの鍛え方ですよね。
平野
そうなんです。
自分はこういうのがいいな、というのをもっと信じて、そこに知識を加えるときに我々の意見を聞いていただければいい、我々はあくまでもプロとしてお客様をサポートする。
お求めになる方をどうやって幸せにして、どうやって満足していただけるかサポートする側なので、選んでいただくのは、やはりご自分の感性を信じて、選んでいただくのが多分いいのです。だからこそ作品を何点か選んだ後に、それを並べてみると、そのコレクションというのは、何となく自分を映す鏡になっているんですよね。
JUMI
その人の内面の欲しているものだったり、魅力的だと思ってる作品を五つ並べてみるとその人の個性がよくわかるということなのですね。
平野
よくわかるんですよ。
JUMI
それはお店の店主の方も、新たな発見で面白そうですね。
平野
面白いんですよ。
だから、お客様や他の方のコレクションを見ると、外見ではわからない「こういう人物だったんだ」と何となく伝わってくる。それがものすごく面白いんですよね。
世界中を回って「これはいい」と思えるものを探すことが仕事
JUMI
実は今日はですね、平野古陶軒から一つ、本当に貴重な美術品をお持ちいただきました。これが本当にかわいい。虎ですか?
平野
そうですね。
虎の形をした筆を置く文房具の一つです。
JUMI
それは何と呼ぶのですか?
中国でいうと、何か名称があるのでしょうか?
平野
「筆立て」だったり、そういう言い方がありますけど、文房具の一つですね。
JUMI
これは何年頃のものなのですか?
平野
中国の宋の終わりから金ぐらいの時代です。
ざっくり言うと今から800年くらい昔のものですね。
JUMI
よくこの京橋の地に来てくださいました、我がスタジオにようこそ!と思います。(笑)
平野
中国陶器というとギラギラした、大きな花瓶みたいな、圧があるような感じのものだと思うんです。でもこれだったら、ご自分のデスクの上にポンと置いてあっていいし、かわいらしいですよね。
JUMI
とてもかわいらしいんです、本当に手のひらサイズなんですよ。
実は平野さん、今日ポケットから箱を出してくださいましたから、何が出てくるかと思いきや、もう本当にかわいい。宋時代または金の時代の虎の筆置き。本当にシンプルなんだけど表情があって素敵ですね。
平野
そうなんですよ。
中国陶磁というのは本当に幅が広いので、「これ面白いじゃないか」というものが必ず見つかる。
JUMI
自分とテレパシーで繋がれるような作品が、いつかどこかで見つかるということですね。
平野
そうなんですよ。
だからそれがどういうものなのかを我々はご紹介するのが仕事だと思っています。世界中を回って、世界中で自分がいいなと思うものを探して買ってくることが自分の仕事です。
JUMI
例えば、今ここに宋の時代の美術品が1つある。これはすごく昔から誰かのために引き継がれてきたものですよね。それを誰かが手にすることは、一時的な預かり物と考えたほうがいいですね?
平野
そうですね。
美術品というのはあくまでも所有物っていうよりも一度自分が預かって、次の世代にパスするまでの預かりチケットじゃないですが、そういうものだと思っていただいた方が嬉しいです。時代を超えて、次に美術品をどんどん伝えていくので、それは例えば、1億のものでも1万円のものでも、価値は時代によって付け方が違うだけなので、伝えていくことが一番重要だと思います。
中国美術を通して平野古陶軒が目指す使命とは
JUMI
なるほどね。
ではここで、平野さんがこれから挑戦なさりたいこと、目指していきたいことがあったら教えてください。
平野
自分がやらなきゃいけないというか、やりたいなと思ってることは、例えば大きな企業の方は、人の生活を大きく変えたり、例えばiPhoneが出てきて世の中は大きく変わったり、極端な話、ポテトチップスの味一つだって、人は幸せに思うわけですよ、食べたときに。こんなのがあった、と。昔は塩味だけでしたから。
そういうふうに僕の専門である中国美術を通して「よかったな」と思ってもらえることをしていきたい。
例えば、僕は中国の物を自分の自宅のリビングに飾っています。それは毎日見るものではないし、常に見続けるものでもない。だけど、ふと家に帰ってきて何となく鍵を置いたり着替えたりしてる時にちらっと目に入ってくるその美術品に、「やっぱりこれ綺麗だな」と思う瞬間がすごく心地いいわけですよね。
そういう気持ちを何とかみんなと共有できないかというのが、自分のある意味、使命でもあるし、やりたいことでもあるから、そういうことを伝えていければと思っています。
JUMI
ありがとうございます。ぜひ伝えていっていただきたいと思います。
というわけで、今日の京橋アート・アベニューは平野古陶軒の平野龍一さんにお越しいただきました。
平野さん、ありがとうございました。
平野
どうもありがとうございました。
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