2024.8.29

『京橋アート・アベニュー』第13回 コレクターから転身、古美術 風招が京橋に店を構えた理由 

中央エフエムHello! Radio City「京橋アート・アベニュー」
第13回 7月18日(木)放送
出演者 古美術 風招 田中伸司さん
ナビゲーター:JUMIさん
*本記事は中央エフエムさんに許可をいただき、収録内容を書き起こして編集したものです。

   

店名「風招」の由来は寺にあり

 

JUMI
皆さん、中央区京橋には日本一のアート街があることをご存知ですか? 古から現代まで多彩なアートの魅力を発信する街、ここは150ものギャラリーが集う日本有数の美術街なんです。江戸時代からアートとゆかりが深くて、美術館級のお宝から、ご家庭で楽しむアートまで何でも揃うアートの街です。そんな京橋にお店を構える美術のプロたちを月替わりでお招きして、アートの街としての魅力を語っていただいています。

さあ、それでは参りましょう、京橋アートアベニュー。今日ご登場くださるのは、京橋1丁目にお店を構えていらっしゃいます古美術 風招の田中伸司さんにお越しいただきました。田中さんよろしくお願いいたします。

 

田中
こんにちは、どうぞよろしくお願いいたします。

 

JUMI
私、オープニングのところでご店主とご紹介したら、いやいやそれは違うんだということだったので、改めてご紹介いただいてよろしいでしょうか?

 

田中
はい、店主はですね、私の家内の田中みさであります。

 

JUMI
では田中伸司様は何をなさってらっしゃるんでしょう?

 

田中
はい、店員です。お金のかからない店員と言ったところでしょうか(笑)

 

JUMI
素敵なコンビでやってらっしゃいますね。さあ、そんな中、ご店員…? ご店員って言わないですよね。店員さんにお越しいただいたんですけれども、今日のメッセージテーマが「あなたは夏得意ですか?」なんですけど、田中さんは いかがですか?

 

 

田中
若い時は夏は得意だと思ってました。そんなに苦じゃなかったんですけども、さすがに昨今ですね、ちょっと気温があまりにもね。それと年を重ねるにつれて、だんだん辛くなってきましたね。

 

JUMI
そうですね。本当にこの後どこまで気温が上がるのか、毎年心配になってきますね。

 

田中
まだ7月ですからね。それと災害がやっぱり心配ですね。

 

JUMI
そうですよね。
さて、田中さんは古美術を扱っていらっしゃって、千年単位の昔のものを扱ってらっしゃる。千年前、二千年前って、どんなだったんだろうなんて本当に想像しますよね。そして、「風招(ふうしょう)」という店名をお持ちなんですけれど、この由来から伺いましょうか。

 

田中
ありがとうございます。それを聞いていただけると嬉しいです。風招という言葉はですね、私どもが作った造語だと思われている方が多いんですけど、実はこの言葉は古くからありまして、お寺なんかの屋根の四隅に「風鐸」というものが下がっているんです。鐘というか鈴のようなものですけど、風を受けてカランカランと鳴るんですね。その風鐸の中に「舌」というものがありまして、その舌からさらに下がっているのが「風招」なんです。

これは何というか昔の紳士のりっぱな口ヒゲみたいな格好をしているんですけども、それが風を受けてそれによって鐘を鳴らすというので、風招、風を招くという字を書くんですね。

 

JUMI
素敵な響きですよね。漢字も素敵ですし。

この字に込められた思いも伺っていきたいと思いますけれども、では古美術 風招ではどんな作品を扱ってらっしゃるのでしょうか。

 

 

京橋に店を持つことになった先輩業者に言われた一言

 

田中
私どもの店では、金石、考古遺物、仏教美術などを中心に扱っておりまして、日本の古美術商の場合、多くが東アジア三国のものを扱っている場合が多いんですけども、私どもも中国大陸とか朝鮮半島からの文化とか文物の流れを感じさせるものを扱いたいというのがコンセプトです。

 

JUMI
そうでしたか。ここ京橋の古美術街は、日本でも一番、世界でも有数だと思いますけど。

 

田中
はい、世界的に有名ですね。

 

JUMI
そうですよね。そういう中にお店を構えられた理由と言いますか、きっかけは?

 

田中
我々実は、古美術業者になるよりも前にコレクターの時代がありまして、その時代は客として京橋に来ていました。京橋は古くからの名店が集まっている場所なんで、我々のような駆け出し業者が京橋に店を出すなんて想像も出来なかったんです。ですが、先輩の業者さんが……とある古美術去来さんという方がですね……。 

 

JUMI
去来さんですね、ご出演いただきましたよ。

 

田中
そうですよね。この方は非常に若い業者の面倒見のいい方で、うちに限らずみんながすごくお世話になっている方なんです。その方がうちが扱っている商品あるいはうちが扱いたい商品というのがどういうものかご存知なので、そういうものをあなたたちがやりたいなら京橋しかないわよと言っていただいて。

いや、まさか自分たちが京橋なんてとんでもないと思いましたけれども、空き物件の情報まで教えていただいてね。

 

JUMI
それはなかなかないことですよ。

 

田中
そのおかげで今こうして京橋に店を出せています。

 

 

約1600年前の石仏から日本に伝来した流れを感じる

 

JUMI
そうでしたか。いろんなご縁がつながっているということですね。そして今回田中さんには風招さんで扱ってらっしゃる作品の中から、一つスタジオにお持ちいただいたんです。今ちょっと私たちは目にしているんですが、あとで皆さんの写真で見ていただきたいと思いますけど、まずざっくりこれは何ですか?

 

田中
仏教美術の範疇に入りますけど三尊、三尊というのは如来を真ん中にして両脇に菩薩がいるのを三尊と言いますけども、三尊石仏という名称になるかと思います。

 

JUMI
石仏ということで石に彫られた仏像ということです。高さはだいたい25センチぐらいだと思います。そして横も約18センチかなと思うんですけど、小さくても非常に密度の濃いものだなと。これはいつの時代のものでしょうか?

 

田中
これがですね、東魏時代と推定されるものなんですね。推定というかほぼそれで間違いないと、我々と仏教美術の研究をされている先生も含めて検証しまして、「東魏」というのは東の魏と書きますけれども中国の六世紀ですね。

 

JUMI
殷周秦漢魏の中の東魏と呼ばれているわけですが、私たちが東とか西とか言ってるものではなくて、実はその時代には単純にここに国あり、みたいなことだったんでしょうかね。

 

田中
そうですね。魏という国名はいくつかありまして、我々が今、北魏とか東魏とか西魏とかね東西南北を上につけて呼んでますけれども、これは現代になっていくつかある国を区別するために便宜上つけたもので、当時は東西南北をつけてたわけではないんですね。この石仏は四足の台座の側面のところに年号と銘文が入っていて、一番最初に「大魏」と書いてあります。大きな魏ですね。この大きいという字は中国が自分たちの国名の前につけることが多くて、例えば唐時代であれば唐の前に大をつけて「大唐」というふうにね。あるいは中国だけじゃなくて日本からも敬う意味で大唐というふうに呼んだりしてました。そういう意味で大がついてます。

 

JUMI
そういうことですか。「大魏」と銘文の中に彫り込まれていて、1400年ぐらい前のものなのですね。それを今私たちは目にしているわけですけど、次には何て書いてあるのですか?

 

田中
その次に「武(ぶ)」という字が書いてあるんですけども、その下にうっすら、「うかんむり」のような痕跡が見える。ところがその「うかんむり」から下が残念ながら欠けてまして。ここからが古美術の面白いところなんですけども、武から始まる年号がいくつか北魏時代からもう少し後の隋まで含めていくつかありますが……その中で様式がまあ東魏ぐらいの様式であろうということが前提にはあるんですが……武の次にうかんむりが付く漢字が来る年号は「武定」しかないと。ということで時代様式と文字の両方から判断して、東魏の武定の時代のものでいいであろうと。

 

JUMI
この時代の仏様のお顔にはどういう特徴があるのですか?

  

田中
この時代はですね、瓜実顔といって縦に細長くて、これが日本の飛鳥時代〜白鳳時代(7世紀)という、日本に仏教が伝来した一番最初のお顔の祖型になっているのです。だから日本人にとっては初めて見る仏さまのお顔です。リスナーの方は現物をご覧になってませんのでわかりにくいかもしれませんが、法隆寺の仏像、三尊仏を思い浮かべていただくとわかりやすいと思います。法隆寺は日本の仏教の原点であり頂点なので、それと比べるのはちょっとおこがましいのですが、様式としてはそういうスタイルです。

 

JUMI
そういうことですね。お耳も大きくて縦に長いという。

 

田中
仰る通り、それも特徴です。

 

JUMI
千年を超えて京橋に、そしてこのスタジオに現れてくれたことが感動的なのですが、彫られている石というのはそんなに年数を経てもボロボロにならない石なのですか?

 

田中
これは大理石で中国で白玉(はくぎょく)と言いますけども、割と硬いので、風雨で磨滅はするんですが、完全になくなってしまうようなことはないと思います。

 

JUMI
こういった作品が実は風招さんにはたくさんおありですか。

 

田中
たくさんはないです。そんなにたくさんあるものではないので、そう簡単に手に入るものでもないのです。

 

JUMI
不思議なご縁でどんどん人から人へと渡って、今ここにあるということですものね。

 

田中
一点一点が古いものなので数のないものが多いです。またうちはできるだけあまりありきたりでないもの、しょっちゅう目にするようなものでないものを扱えればいいなとは思っています。

 

JUMI
風招さんへフラッと訪れてもよろしいですか。

 

田中
もちろん大歓迎です。

 

 

今後の展示会について

 

JUMI
嬉しい。そしてそこで出会ったものがその時にご縁のあったものっていうふうに考えた方がいいかもしれないですね。実は風招さんは今年の秋に展示会も開催されるということで、そこでも皆さんに選りすぐりの作品をご覧いただけると思うんですが、そのご紹介もお願いできますでしょうか。

 

田中
ありがとうございます。10月11日から14日まで風招の店舗で展示会を催す予定でおります。この時は実は美術倶楽部のほうで、東美特別展という三年に一度しかない超一流のお店ばかりが集まる展示会がありまして、大変恐縮なんですけどもその日程と合わせて開催させていただきます。

 

JUMI
素晴らしい。ぜひ多くの方に古美術の魅力を知っていただきたいですし、それが京橋で楽しめるということも知っておいていただけるといいですね。ありがとうございました。

というわけで今回は京橋一丁目にございます古美術 風招の田中伸司さんにお越しいただきました。田中さん本当にありがとうございました。

 

田中
こちらこそありがとうございます。

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