2024.1.15
『京橋アート・アベニュー』第7回 北大路魯山人との繋がりを持つ黒田草臣さんに聞く、京橋2丁目の魯卿あんとは?
中央エフエムHello! Radio City「京橋アート・アベニュー」
第7回12月20日(水)放送
出演者 魯卿あん 黒田草臣様
ナビゲーター:JUMIさん
*本記事は中央エフエムさんに許可をいただき、収録内容を書き起こして編集したものです。
たなごころ温まる魯山人の志野焼
JUMI
Hello! Radio City京橋ア―ト・アベニュー、皆さん中央区京橋には日本一のアート街があることをご存知ですか? いにしえから現代まで多彩なアートの魅力を発信する街。ここは150ものギャラリーが集う日本有数の美術街です。
江戸時代からアートと所縁が深く、美術館級のお宝から、ご家庭で楽しむアートまで何でも揃うアートの街なのです。そんな京橋にお店を構える美術のプロたちを月替わりでお招きして、アートの街の魅力を語っていただいています。
さあ、京橋アート・アベニュー、今日スタジオにお越しくださいましたのは、京橋2丁目にあります魯卿あんのご店主、黒田草臣さんです。黒田さん、よろしくお願いいたします。
黒田
よろしくお願いします。
JUMI
黒田さんには、今年4月にもハローラジオシティにご登場いただきました。その時は、東京アートアンティークについてご紹介いただいたのですが、今日は「魯卿あん」について、さらに詳しく伺っていきます。
まず最初に今日のメッセージテーマ「心も体も温ったまるもの」ですがいかがでしょう。
黒田
今日、偶然にも持参したものが魯山人の志野の茶碗なのですが、志野茶碗は本当に温かみがありますし、日本のやきもので初めて茶碗として作った中の一つでもあるのです。
それまでは、茶碗と言えば中国や李朝のもので、ちょっと薄手で反ったものが多かったのです。志野や樂は、掌に収まる言いますか、ちょうど今の季節から3月頃まで一服いただくには、包み込む形がちょうど良くて熱が逃げないのです。
JUMI
なるほど、熱が逃げないということですね。
それにしても、黒田さんは、あの「魯山人」が焼いた志野を使ってらっしゃるのですからね! 何とも贅沢ですが、これで一服するひとときが心も身体も温まる時になるのですね。
黒田
そうですね。なかなか魯山人のものは使えないけれども、何碗かありますので、気分によって取っ換え引っ換え使わせていただいています。
魯卿あんご店主の名付け親となった魯山人
JUMI
素敵、いいですね! 実は黒田さん、お名前が草臣(くろだ くさおみ)さんとおっしゃいますね。ご自身はあまり聞かないでとおっしゃっていましたが、私はあえて伺いますが、お名前を命名なさったのは……?
黒田
……魯山人です。
JUMI
北大路魯山人が黒田さんにお名前をお付けになられたのですね。でも、小さい頃は全く知らなかった?!
黒田
そうですね。小学校に上がってから学校の先生が出席を取りますよね。必ず僕のところで「そうしん」と読むんですよ。
JUMI
「くさおみ」というのは「草」という字に、大臣の「臣」というのを書くんですけれども、、、
黒田
担任が変わっても「草臣(そうしん)」なんですよね。
その後「草臣(くさおみ)」だとわかって「草臣(くさおみ)」と読んでくれるのですけれども、初めは皆さんつまずいてしまう。
JUMI
それを子供心にどういうふうに捉えてらっしゃったのですか?
黒田
あまり嬉しくなかったし、親になぜ俺にこんな名前つけたんだって。
親としては「耕治(こうじ)」という名前を用意していたそうです。
黒田耕治というのは、僕の長男につけたのですが、魯山人が「俺が名前付ける」と言ってくれて「草臣」になりました。
JUMI
世界で魯山人から名前をいただいた方は、そういらっしゃいませんよ!
黒田
私の亡くなった兄(靖親)もそうです。ちょうどその頃は父との付き合いが多かったからですね。
JUMI
そんなお話を前回伺って印象深く思っていたのですが、今日はその魯卿あんご店主黒田さんに、さらに詳しく北大路魯山人との繋がりやお店のことを教えていただきたいと思います。まず「魯卿あん」という店名も非常に印象深いです。どうしてこの店名に?
黒田
魯山人が20歳の時、東京に出てきました。古美術が好きで京橋の古美術街をたくさん見てまわるうちに、自宅は足の踏み場がなくなるほどたくさん集まっていました。
JUMI
そんなに?!
黒田
だからどうにか処分したい、となったときに大正8年の春に大雅堂というお店を立ち上げました。当時魯山人は、その向かい側の大家さんの息子(野田可堂)に書を教えていました。
JUMI
なるほど。
黒田
書を教えに行っていたら、前の二階家が空いていると知りまして。2階建の俗に言う店舗付き住宅です。これはいい、と即借りることになったのです。それが「大雅堂」と「美食倶楽部」なのです。
大正時代から魯山人は、「魯卿(ろけい)」という名前を使っていました。
JUMI
ロケイ?!
黒田
はい。魯山人が手紙を書いたときに、最後に魯山人と書かないで魯卿と書いてあったりします。一つの号ですよね。僕の知っているだけでも昭和29年ぐらいまで使っている。もっとあるかもしれません34年に亡くなっています。
黒田
その「魯卿」に「あん」は普通の「いろり」の「庵」を付けてみたら、これは蕎麦屋に間違えられそうだなと思って。「あん」をひらがなにしました。
北大路魯山人が東京京橋に上京した理由
JUMI
魯山人の書も本当に素晴らしいわけですが、例えば今おっしゃった「あん」という字の、「あ」だけでも一つの手紙の中で全部「あ」のかたちが違うと聞きましたが?
黒田
僕なんかも全て同じになってしまいますが、魯山人はそれだけ配慮しながら書いていて、字体を少しずつ変えていくんですよね。漢字からひらがなになってきますよね。「あ」は、安田さんの「安」、阿妻さんの「阿」などから字を取っているわけです。もとがあって「あ」という字を変えながら使っています。魯山人が勝手に開発してるわけではなくて、漢字からひらがなに変わる過程の字を上手く使のですよ。
JUMI
そういう目線で魯山人の書を見たことはなかったので、これから拝見する時はそれを思い出しながら見ることができますね。
今日お話を伺っただけでも、北大路魯山人がここ京橋の地に本当に愛着を持っていたということがわかって感慨深いです。
黒田
ご存知の通り明治16年に生まれてるんですけれども、20歳になると男の子はみんな徴兵検査がありますよね。彼はど近眼なんですよ。
JUMI
魯山人が?
黒田
それで甲種合格しなかったのです。それがいい方向に向いたかどうかわからないのですが、僕としてはいい方に向いたと思っています。そこでずっと書道教室をやっていたのですけど、もう少し突き詰めたい気持ちがあって東京に出ました。東京に日下部鳴鶴と巖谷一六という著名な書家がいて、そのどちらかに弟子入りするつもりだったのと、親戚からお母さんが東京で奉公しているよと聞かされていたのです。魯山人は、母親を見たことがないのです。生まれてまだ目が見えないうちに比叡山を越えた農家に出されてしまったからです。
JUMI
お母さんに会いたいと思ったのですね。
黒田
その二つの目的で東京に出てきたのが20歳のときですね。
そして20年間、大体京橋を拠点に動いているんです。20年後に何があったかというと、大正12年9月1日の関東大震災で燃えてしまって仕方なくという感じですね。燃えなければ、もうしばらくは京橋にいたかもしれないですね。
京橋にいる間に、やきものも篆刻もやるようになりました。
JUMI
今日スタジオにお持ちいただいた、北大路魯山人が焼いた志野焼。普通のものよりも赤が強いイメージがあるのですが、これはどういうことなのでしょう。
黒田
当時巨匠と言われていた加藤唐九郎という方と、人間国宝になった荒川豊蔵ですね、そういう方達は大体白っぽい志野に画を描いたものが多いのです。どちらかというと、こういう鼠志野とか言われる、ちょっとグレーのものは嫌われるというか、あまり日の目を見なかったのです。日本で初めて白いやきものが出来たのが志野だったのです。もちろん魯山人も普通の志野も作っていますよ。ですが、俺はこんな志野を作りたいと思っている、と強く焼いて、赤がしっかり出るように釉薬を薄くかけるんですね。普通志野って…
JUMI
こってり、たっぷりみたいなイメージありますよね。
黒田
そうですね。それを逆に少し薄めにかけると、焼き上がると赤志野になる。
JUMI
綺麗な色なんですよ。写真でうまく出るかわかりませんが、ブログで見ていただきたいと思います。
魯卿あん新春の一押し展覧会
JUMI
さあ、魯卿あんでは展示会もございます。来年(2024年)になりますが、1月19日から1月27日まで茶碗特集展が開催されますね。そして2月5日から17日までは酒器特集展もございます。
黒田
これはお正月に向けてるっていうことで、初盌ということで作品を披露するというものです。もちろん物故作家の作品です。
JUMI
北大路魯山人の作品をご覧になりたいという方は、京橋2丁目にあります魯卿あんにぜひお越しください。黒田草臣さんがいらっしゃるかどうかは、ちょっとわからないところはございますけれども、ぜひ店内をじっくり見ていただきたいと思います。
黒田
2024年の4月の東京アートアンティーク期間中は魯山人展を開催します。
JUMI
承知しました。来年の東京アートアンティークは、京橋エリア、そして日本橋の方までですけれども開催されます。ちょうどゴールデンウィーク直前のところで開催しますので、皆さん楽しみにしていただきたいと思います。
というわけで今日はスタジオに京橋2丁目にございます、魯卿あんご店主黒田草臣さんにお越しいただきました。黒田さん本当にありがとうございました。
黒田
ありがとうございました。
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