2011.4.5
店主インタビュー 古美術 天宝堂
増田圭吾氏
Q この世界に入られたきっかけを教えてください。
A 父も静岡で古美術店をやっているんですが、小さい頃から骨董祭などで手伝ってたり、僕も自営業という職業につきたかったので、父の姿を見ていて、こういう職業も面白いかなと思いまして。それでだんだん父の仕事を手伝うようになっていったんです。昔、父が持っていた古伊万里の猪口があったんですけれども、それが、とても綺麗だな、と思って父に聞いてみたら、「もう売約になってしまった。」と言われたんです。でもまたしばらくして聞いてみたら、「あれ、キャンセルになった。」と言ったので、「じゃあそれ、買うよ。」って言ったんです。高校生の頃だったんですが、父にしては、それがとても驚きだったみたいで、「そんなに気に入ったのなら、やるよ。」って言ってくれて。それが骨董を始めて手に入れた瞬間ですね。
Q それは実際にはいくらのものだったのですか?
A 1万5千円で「売約」になっていたみたいなんです。江戸時代の中期のものでした。でも、江戸時代のものが1万5千円で買えるということが、僕にとってはすごく安く感じたんですね。今まで歴史の本なんかで見ていたものが、身の回りにあるということを全く知らなくて、父の仕事が古いものを扱っているということはわかっていたんですが、それが具体的にどういう時代のものなのか、全然理解していなくて。その猪口を手にした時、始めて、江戸時代のものが目の前にある!、ということを認識したんですよね。その猪口は今でも自分の家宝として持っています。
Q 小さい頃からそういうものに囲まれていたことで目を養ってこられたんですね。
A そうですね。父の影響なのか、美術に触れることが好きで、大学で学芸員の資格が取れる大学に行ったんですけれども、卒業する時に学芸員になるか、骨董商になるか迷った時期があったんです。でも、商売という点にも興味があったものですから、自分の好きな物を扱えて、尚かつ様々な美術品に囲まれているというこの職業を選んだんです。大学を出てからは京橋の甍堂で修行をさせていただいて、その後、しばらく父のところにいたのですが、結婚して東京に出て来て、ずっと京橋界隈でお店の場所を探していて、1年半前にやっとこの場所を見つけ、ここに店を出すことになったんです。
Q 扱っているのは日本のものが多いのですか?
A そうですね、日本のものが多いです。後は朝鮮のものですとか。たまに中国ものも欲を出して扱ったりしますけれども(笑)。好きなところは、日本の美術とか朝鮮のものですね。
Q 日本のものではどういったものが多いのでしょうか?
A 扱っているものの幅は広いですが、主に仏教美術が好きで、発掘品も好きです。民芸品も好きです。酒器とか伊万里とか分野で特化しているわけではなくて、自分が気に入ったものを特にこだわらずに扱っています。その中でも「大津絵」という、滋賀県の大津市で昔作られた、今で言うお土産品ですね。それが好きで特に力を入れて扱っていますね。開店の時に「大津絵展」という始めての企画展をやって、去年の東京アートアンティークでも「初期大津絵と初期伊万里展」という大津絵を取り込んだ企画展をしました。この場をおかりして、天宝堂の企画展に来ていただいた沢山のお客様に、改めて、お礼が言いたいです。企画展の際は、たくさんの方々にご来店いただきまして、本当にありがとうございました。感謝いたします。やはり大津絵に関しては力を入れている分野ではありますね。
Q 美術品が一番お好きだとは思うのですが、それ以外に趣味にされていることはありますか?
A いや、地方に行っても骨董屋さん巡りしたりだとか。
Q 地方に行かれる時にすることは何かありますか?
A そうですね、美術館や古寺を回ったりですとか、その土地ならではの風景があれば一緒に回ったりしますが、それもなかなか時間が取れたり、取れなかったりですね。
Q どういった基準で商品を選ばれているのでしょうか?
A センスのいいものを扱うようにしています。同じ伊万里のお皿でも、絵柄がパッとしないものというのは沢山あります。その中でも、面白いな、と思うようなものを扱うようにしていますね。でも一言でセンスのいいものというのも難しいですよね。一流と呼ばれている人たちは、その感覚がちゃんと確かたるものがあって、それを掴むまで、どうしたらいいのだろう。と、とっかかりが無かったんですよね。それは美術館や博物館に行って、良いものを見ればわかるようになるか、と言えば、それだけでもないですし。良いと言われているものを、自分の中で消化させていくということが、難しかったですね。あとは真贋ですかね。この世界にいる限りはついて回ることだと思っています。
Q それは見極めが難しいということですか?
A 今までの歴史の中でも再興や復興というかたちで、天平時代のものを鎌倉時代に写したりだとか、平安時代のものを室町時代に写したりだとか、そういうことはやっているんですよね。そういうものが贋物かというと、そうではないですよね。時代が経てばそれは美術品としての価値があるんです。それを今に言い換えれば、江戸時代のものを現代に作ったとしても、丁寧に作っていて綺麗なら、それはそれで気軽に使えるものとして、問題ないというか。贋物を決して支援するわけではなくて、物の本質を見抜くということが大事ではないかな、と思いますね。
Q まだあまり骨董に慣れていない方に出来るアドバイスはありますか?
A まずは柔軟な態度でいられるのは大事なことの一つかな、と思いますね。聞く耳を持つということは大事だと思います。あとは、本当に自分がいいな、使ってみたいな、と思うものを買われることをおすすめします。
Q 最後に東京アートアンティークに来られる方に一言メッセージをお願いいたします。
A この界隈で古美術というと敷居が高い感じがするので、今回「座辺の骨董」という、気軽に骨董を楽しめることをコンセプトにして、安いものは数千円のものから、高いものでも十万円以内で買えるものを中心にそろえる予定なんです。たとえ数千円のものでも、自分が気に入っていいな、と思ったものを集めてきています。値段が高い、安いということに関わらず、それをいかにして楽しむかということだと思っています。買ってきたからいいや、と言って押入れに閉まってしまう方もいらっしゃるんですよね。そうではなくて、身近に置いて、使ったり眺めたりして気軽に楽しめてずっと側に置いていただけるものを、紹介します。自分がもともとこの骨董の世界に入ったのは、お客さんとのやり取りが楽しくて、そのお客さんが品物を手に入れて、これは何々に使おうかな、と言ってくれるのが嬉しくて、より広く発信していきたいとずっと思ってきたことなので、それを重点において展示したいと思っています。
お忙しい中ありがとうございました。
(2011年4月)
古美術 天宝堂
東京都中央区日本橋2-9-7