2025.4.14
見極めた確かな作家・魅力ある作品を丁寧にご紹介する

megumu art 丸山 恵 様
━━2024年7月にオープンされた「megumu art」さんですが、大きな窓と木のぬくもりが良いアクセントとなり、明るくて柔らかな雰囲気の空間ですね。
ありがとうございます。
私自身、歴史や時間、趣を感じ、迫力のある作品が好きでして、そういったものを展示したいと考えたとき、爽やかで静謐な中に少し重厚感のある家具を加えたいな、と思い、20世紀半ばごろに作られた、インドネシア製の展示台を設置しました。現在ではとても希少な、厚みのあるチーク材が使われています。
また、本式ではありませんが、床の間に見立てた展示空間も設けました。特に午前中にかけ、北向きのこの窓から柔らかな自然光が入るので、やきものやガラス、漆、絵画も、美しくご覧いただけると思います。
━━第一印象で感じた、丸山さんの柔和な雰囲気にもぴったりですね。長らく水戸忠交易さんでお仕事をされての独立ですが、この京橋エリアで開廊なさろうと決めていらしたのですか。
いいえ、この物件とも偶然出会いました。
かつて日本橋にあった水戸忠交易の事務所に通勤していたこともあり、一流のお店や美術商が集うこのエリアは、私にとって憧れの場所です。少々 分不相応では、とも思いましたが、応援するよ、と送り出してもらいましたし、せっかくですから“真ん中”へ飛び込んでみよう、と。
水戸忠交易でお世話になっていた間は、林大介社長はもちろん、創業者であり前代表の林利彦様からも、さまざまなことを学びました。現在もこの近隣には、ありがたいことに私が駆け出しの頃から存じ上げている同業の先輩方がたくさんいらっしゃいますので、疑問やわからないことがあると教えを乞いに伺っていますね。
━━初参加となる「東京アートアンティーク2025(以下、TAA2025)」では、どんな作品をご紹介しますか。
現代陶芸作家の青木岳文(たけふみ)さんの個展を開催します。
青木さんは、スポイト状の道具で白磁泥を小さく絞り出して積み重ね、型取りしたパーツと組み合わせて陶の立体作品を制作している、30代の作家です。岐阜県土岐市のご出身で、現在も土岐を拠点に活動されています。
シャープで幾何学的な印象と、一粒一粒、丁寧に紡ぐように重ねて生まれる軽やかな印象、凛とした白磁の世界を楽しんでいただけたら、と思っています。
━━繊細で美しい作品ですね。青木さんと丸山さんのご縁は長いのでしょうか。
そうですね、独立前の最後の年に、何かグループ展を企画してみたら、と社長に勧められ、以前から公募展などで作品を拝見していた青木さんにお声がけしたのが始まりです。
青木さんに限らず、新たな作家の方を探すときにインスタグラムなどを活用することも増えました。たまたま作品を目にしたのをきっかけに、どこかで展示が開催されるタイミングで直接伺うことも多いですね。
私は、水戸忠交易に入社して本当に間もない頃に言われて、今も記憶に残っている言葉があります。
それは、前代表と親しかった、故・林屋晴三氏に、初めて紹介されてご挨拶した際、「ものを見なさいよ」と、きっぱり一言、芯をついたように仰っていただいたことです。
誰が作ったとか、誰が評価しているとか、付随する情報で判断するのではなく、まずはものを見る。そして漫然と見るのではなく、細かなディテールまで記憶するかのように、目の前に実態として存在している作品がどういったものなのか、魅力的かどうか、を見る、ということを大切にしています。確実にできているか、と問われると、今でも難しいのですが…。
━━まさに核心をつくような言葉ですね。TAAをきっかけに足を運ぶお客様にとっては特に、青木さんのような現代作家の作品を、歴史に残る巨匠の名品を扱う水戸忠交易で基礎から学ばれた丸山さんのもとで拝見できるのは、大きな魅力があると思います。
ありがとうございます。
“ 古典をふまえた上で現代作家の作品を紹介している”ということで、信頼してご覧いただけるのでしたら、ありがたい限りですね。
━━最後に、作品を鑑賞したり購入したりする魅力とはどんなところにあるか、をお聞かせください。
そうですね、作品を通じて、作り手の思いと、見る人の思いが、時代や国を超えて共鳴するかのように出会うところが魅力だと思います。また、美術商の立場から申し上げると、ドキドキしながら選び抜いたお品物を、お客様から「迎えたい」と言っていただいたときの喜びは、全てが報われたような、何にも代えがたいほどの気持ちにもなりますね。
うつわや工芸の作品を「見方がわからない、難しい」と敬遠される方もいらっしゃいますし、特に現代美術の作品の見方が日本人にわかりにくい、と言われがちなのも、ある意味当然かもしれません。西洋の美術と日本の美術とでは、歴史や役割、成り立ってきた文化や背景が全く異なりますから。
とはいえ、まずは現代作家のものでも古美術でも、工芸、絵画、立体などを問わず、手ごろな値段の作品から買い求め、共に生活してみてはいかがでしょうか。また、ほんの少しでも関心がありそうな家族や友達と、美術館やギャラリーで作家や作品について気軽に話したり、好きだったものを共有しあったりするだけでも面白いと思います。
まさにTAAの期間は、京橋の街を散歩しながら、さまざまなお店を巡る体験ができます。本当にいろんなお品物を間近に拝見できますから、多くの方に楽しんでいただきたいですね。
megumu art
https://www.tokyoartantiques.com/gallery/megumu-art/
インタビュー・執筆:Naomi
https://naomi-artwriter.my.canva.site/
撮影:東京アートアンティーク実行委員会