2011.4.5
店主インタビュー 古美術 佗助
橋本氏
Q どのようなきっかけでお店を開かれたのでしょうか?
A 私は若い頃、鍋島が好きであるところからたくさん集めていたんです。だけどそれが全部偽物でね。とても悔しくて、そんな店があるなら私がちゃんとした店を出そうと思いまして。それから沢山勉強してお店を出すまでになりました。見分けること、仕分けることを早いうちに教えられましたね。
Q 日本のものをメインに扱ってらっしゃるんですか?
A そうですね、私は鍋島で大火傷したんでリベンジで鍋島から入って、古九谷とか初期伊万里とか、そういうところに出かけていったんですけど、片一方で酒がもともと好きですから、酒を呑んで楽しくなるような器っていうとぐい呑みとか徳利でしょ。それはね、伊万里や鍋島とは違った難しさがあるわけですよ。最初の頃はそういう物を専門にしている人から色んな物を買ってね。買って売れないから、交換会に出したら4分の1にしかならなかったとかね。そういうこともいっぱいあるけれども、先達から教えてもらうためにはそういうお付き合いをしなくてはいけないので、ずいぶん勉強料払いましたよ。それはやっぱりすごく身に付くんだよ。自分で身銭切って払って。値段的に高かった安かったは別として、物はいいから、これはいつ頃だ、と勉強することができる。
Q 骨董以外で集めている物はあるのでしょうか?
A 酒はずいぶん集めてますよ(笑)。ウィスキーだって、世界で多分一番古いウィスキーですよ。100年以上経ってるウィスキーね。
Q 味が違うんですか?
A 全然違うね。これはね、飲んでみないと、いくら説明したってわからない。マイルドでなんとも言えない味わいなんだよ、って言ったってわからないよね。元々酒が好きでね、皆が大吟醸なんて見向きもしなかった頃に、今ではプレミアのついている九州の熊本の香露ね。あれなんか誰も飲まなくて飲み屋の棚の上にだーっと並んでた時があったんですよ。寒梅だってそんなに人気がなくてね。それを美味いなーって思ったわけ。で人気が出だして、30年以上前かな、寒梅なんか見る影も無くなっちゃったしね。あの頃の寒梅を飲んでたら今の寒梅は飲めた物じゃない。香露だって昔は美味かったけど今は...。
そういうのは、実際に探して飲んで味わってみないとわからないでしょ?なんでもそうだけど、経験をしないと身に付かないんですよ。そりゃ50年もののウィスキーなんて何十万もしますから、でもそれを買って飲んでみる。ビールでも、私は日本のビールは飲まないんですよ。あれは大量生産されてるけど、ヨーロッパの修道院で800年前から同じ製法で作られているビールとか、イギリスで年間で1万本だか2万本しか作らないビールがあるんですよ。それは一本3千円くらいして高いんです。その代わり、日本のビールみたいに半年経ったら賞味期限が切れて捨てるんじゃなくて、ただのコルク栓だけれども、5年置いても10年置いても熟成していくというビールなんだよ。消費期限は10年ぐらい経った年月が一応書いてあるんだけれどね。で消費期限が過ぎたからって安くなっちゃうわけですよ。ところがそういうビールはそこからが美味いんだよ。一番美味いビールを皆捨てちゃうんだよ。もったいないでしょ。
僕はデパートの試飲会では絶対に試飲はしない。自分で買って、家で飲んでみて、美味しければダースで買う。不味ければ、これは二度と飲まなくていいな、ってわかるわけ。それは骨董も同じですよ。料理だって、一流の寿司屋があっても、行って実際に食べてみないとわからないでしょ。一流と言われてないけれども、こっちもいい味出してるな、とかね。評論家の言葉に従って、評論家が言ったからそこがいい店だとは限らない。全ては自分の足で歩いて、経験してみるということが大事だよ。
Q かなりこだわりが強いですね。
A 強いですね。焼酎でもね、おそらく日本で一番古い瓶に入ってた50年物があるんですよ。それはおそらく僕しか持っていない。それはある蔵本のところで戦後作られて、試験的にとってあったんですよ。その瓶を全部一度に出すことはしなかったんだけど、全部買うから出す時は言ってくれって伝えて出るたびに買ってたら何十本になっちゃってね。それはあるデパートの物産展に出てたの。さすがにそれは高かったから、試飲用のお酒が無いから全然売れてなくて。でも50年経ってたらまずいわけが無いということで、出てるだけ買って帰って飲んでみたら美味かったんだよ。それでこれが出たら全部買い占めるから、とにかく言ってくれ、と。そしたらね、ちゃんとそうなったよ。何年かかけたけどね。泡盛は100年とかあるけど、それは戦後いったん中断されてるんです、戦争で。もう古い戦前の泡盛っていうのはなくなってるわけですよ。本来泡盛っていうのは継ぎ足し継ぎ足しで古い味を残して伝えていくわけですけどね。芋なんてのはね、すぐ腐っちゃうから長く熟成できないんですよ。そば焼酎だって、戦後の小麦を大量に輸入しちゃって、余った小麦をどうしようかっていうんで焼酎メーカーと相談して作った戦後の新しい焼酎ですよ。という風にね、好きだったら色々と勉強して学習していくでしょ。それが大事でね。そういうこだわりは、この辺のお店だったらご主人が皆持ってると思います。形は違ってもね。皆好きですし、極めてますからね。せっかくこの辺でこういう催しをやるわけですから、その時だけじゃなくて、自分が行ったお店と気が合えば深くつき合っていくと、人生を豊かにするようなきっかけになるんじゃないかと思いますね。
Q ぐい呑みというのは、どういった観点で選ばれるのでしょうか?ご主人の好みというか
A これも人によって感覚が違うから何とも言えないんですけれども、とりあえずはね、これで飲んだら美味いかな、って思って買ってくるわけです。物は間違いなくて時代もあるんだけど、実際に酒飲んでみたら、酒の味が尖ってきてあまり美味くないな、とか、見た目は美味く飲めないと思ったけど、実際に使ってみたら、これはなかなか美味く飲めるな、とかね。例えば、普通のおちょこだったらお茶も飲めるんだけど、お茶とか水を飲んでみると美味く飲めないのに、酒だったら美味く飲めるな、とかそういうのがあるの。だから僕は必ず仕入れて来た物は自分で使ってみて、これはいけるなと思ったらお客さんに勧める。自分で経験してね、これだったら誰が使っても酒が飲めるな、とかね。
Q ではご主人の経験によるお墨付きがついているわけですね。
A でも経験っていったって、たいしたこと無いの。青二才だから。
うちはね、なんで自動ドアにしないかと言うと、骨董の世界に入るということはね、ある程度の自分の決意みたいな物を持ってもらいたいんですよ。自動ドアでスッと黙って入ってスッと出て行くというんじゃなくて、やっぱりドアを押すというのも大変なことなんですね。勇気がいるんです。だからドアを押して入って来てもらう。そこでお互い話をする。どういうのが好きなのかとかね。
Q お客さんのなかで珍しいコレクションはありますか?
A 幅広いですよ。こんな古伊万里、古九谷持っていたのか、とかね。かなり貴重な資料になるようなものとか、ぐい呑みでもお金を持っている方はそれなりの名品を持っている方もいらっしゃるし、普通のサラリーマンでも発掘品で傷があっても、なかなかいい物を持っている方もいらっしゃいます。皆様、無傷の物が欲しいと必ずおっしゃるんです。でも傷物の方が魅力がある場合もあるんです。そこは心を広くして、いいところを見ていくというのが大事なんです。人間だって完璧じゃないでしょ。欠点や癖もある。そういうものを合わせ飲むということに通じると思うんです。それからね、偽物というのはとても毛嫌いされていて、僕もものすごく嫌な思いをしんだけど、偽物というのは反面教師でね、どうしてこんな物を買っちゃったのかなとか、なんでこんな物わからなかったのかな、って調べるんですよ。そのエネルギーってすごいんですよ。本物しか持っていない人にはわからない部分なんですけれども。そういう意味で偽物もいい刺激になるのかなって(笑)。今でもね、本物と偽物の瀬戸際のものがあるわけですよ。こっちへ転べば本物、逆に転べば偽物という具合にね。そのような時はやっぱり自分で調べるんですよ。で、偽物だったら、なんで自分はそう思ったのかな、ってここでまた考えるんですよ。それはすごく勉強になりますね。人によっては高くて誰でもわかるような物しか扱わないという人もいて、もちろんうちでもそういう物は扱うんですけれども、やっぱりそういった瀬戸際のものも面白くってね、そういうのも扱うんですよ。そのままでは売らないですよ、ちゃんと調べて経緯を説明します。これはこういう根拠があるからで大丈夫です、とかこれはこう思ったんだけど失敗しましたって(笑)。そうするとお客さんも勉強になるわけですよ。そういう関係がいいんじゃないかと思うんですよ。また逆にお客さんに教えられることは沢山ありますからね。
Q 今一押しの作家さんはいらっしゃるんですか?
A うちは基本的に作家物は扱わないんですけどね、今回のフェアに合わせて山本勘也君の作品を扱います。10年以上のお付き合いがあるんですけど、とてもまじめで無骨で、始めはこのまま行ってもだめだろうなーって思ってたんです。毎年毎年作品持って来て、まだだめだ、まだだめだ、って。ようやっと去年あたりにね、やってもいいかなって思うようになって。そしたら結構好評でね。去年やる前に1年だけ時間あげるから、それでものにならなかったらやめた方がいいよ、って言ったら本人も気合い入れて作って来て、なかなかいいなって思ったんでね。今後どこまでのびるかわからないですけど、一人で努力して来た人だからね、遅咲きの大輪を咲かせてもらいたいなと思って。
Q 最後に東京アートアンティークに御来店いただくお客様に一言お願いいたします。
A あまり肩肘張らずに、気楽にざっくばらんにお店の人と話してください。どんな事でもいいですから。敷居が高いからといって引いてしまったり、肩に力入れて俺はこうだって言うんじゃなくてね。多分色々と教えられることもあるし、逆にお店の人に教えることもあるかも知れませんから。沢山話してください。
そしてこの後まだまだお酒と器の話は続くのでした。
お忙しい中楽しいお話をたくさんありがとうございました。
(2011年3月)
佗助
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