朝長弘人「雷」
朝長弘人は、眼前のものがふと違って見える瞬間を捉え、それを絵画に起こそうとしています。作家の眼の中で起こる変化は、徐々に絵画における絵具の質へと変換され、画面に固定されます。描かれた絵画は固定されつつも再び動く予感を含んでおり、それは眼前の世界に対し作家自身が抱く寄る辺なさのあらわれでもあります。
朝長の絵画は、絵肌に特徴があります。物理的な厚みはありませんが、筆で叩き上げたり、絵具を練り込んだり重ねたり、あるいは拭ったりすることで、深みのある絵肌が生まれています。画面の上で脈を打ち、呼吸しているような生々しさがあり、どこか消滅に向かうような印象も受けますが、決してささやかではありません。作品を実際に観ることで、画面で観る以上にその強さを感じるでしょう。
また、朝長は生活圏を遊歩するなかで目に残った景色や言葉を手帳に書き留め、反芻しています。その行為が絵画の制作に至った時、朝長のイメージや思考は、上述の技法により、像を結ぶことのない、漂い、振動するものとして描かれます。朝長の作品がもつ定まらなさは、言語や世界のロジックを超え、また窮屈さを感じながらも私たちが安住している場所を揺り動かすようです。