2011.4.5

店主インタビュー 浦上蒼穹堂

浦上満氏

Q こちらにお店を出されて何年になりますか?

A 独立開業して32年、ここのビルに移って25年ですかね。その前はもっと小さいところでやってましたからね。その前に繭山龍泉堂さんに5年お世話になりましたから、業界37年ですね。

Q 今主に扱ってらっしゃるものは?

A 僕が扱うものは基本的に中国陶磁が多いですね。あと高麗李朝といった朝鮮陶磁、日本のものもやるんですよ。ただ比率はやっぱり8割以上が中国陶磁でしょうか。

Q また北斎も個人的なコレクションがおありで。

A 北斎は僕が18歳の頃から集めています。北斎漫画というのはご存知かと思いますけど、一応僕は世界一のコレクターといわれています。この間もパリのオークションでいくつか落としました。ジャポニズムで有名な画家とか評論家が持ってたものが出たんですよ。彼らがどの程度の刷りのものを見て驚いたのか興味があったものですから。
シーボルトが一番始めに北斎漫画をヨーロッパに持って帰ったんですよ。それが数年前江戸東京博物館で北斎展をやった時に来たんですね。で僕のと並べて展示してたんですけど調べてみたら、僕の持っている方が早かった(笑)。版画って複製芸術ですから、刷りが早い方がいいわけですよ。もちろんシーボルトのものもとても早いんですよ。でも不思議なことは、僕が持っているものはヨーロッパで買ってるんです。要するにその後幕末・明治に、欧米において北斎ブームがおこり、日本からたくさん輸出されたんですね。その中に初刷りが入っていて、それを僕がまた買い戻して来たと。僕は現在、1400冊ぐらい持っているんですけれど、そのうちの3分の1は外国から買い戻して来た。向こうの人は北斎漫画を宝物のように大事に扱っていたから状態がいいですね。だからより早い刷りのものでなおかつ保存状態のいいものを追い求めて、もっといいものがあるんじゃないかと集めているうちにこんな数になってしまった、というのが本音というか実情かもしれないですね。
仕事でやっている中国当時の世界では、中国の新石器時代といって昔は考古学の対象だった時代のものをやったことが思い出深いですね。1991年に第1回目の展覧会をしたんですよ。「紀元前中国陶磁」といってね、中国に紀元前もないんだけど、わかりやすいじゃないですか。その時はたくさん美術館が買ってくれて。3年後にパート2をやったらこれがまた大変な評判になったんです。外国でもその展覧会の図録は増刷してくれと言われました。何故かというと、今までそういったジャンルが無かったところに各々150点ぐらいのいろいろなバリエーションの作品をのせたんです。教科書というか参考書にうってつけだったんでしょう。最近は中国人が経済力をつけて世界中から中国美術を買い戻しに来ている、というのが現状です。ただまだ彼らは清とか明にしか注目していないんです。でもその辺のものは数千万円から数億円がざらというぐらい異常な値がつきますね。だから彼らが宋や唐よりもっと古いものを買い出したら我々は扱うものがなくなってしまう恐れすらあります。
一方、日本では美術品を買う文化というのがすごい勢いで廃れてしまっている。これは由々しきことなんです。二言目には「景気が悪い」でしょ。若い人は将来が不安で美術品なんか買いたくないという人が圧倒的に多いですしね。美術館に2時間待って展覧会を見ることもすばらしいことです。でもそれだけじゃ足りないんです。今は買うってことが異次元の世界のように思っている人が多いので、去年のアートフェア東京で僕はかなり安いものもたくさん出したんです。結果的にはよく売れました。2、3万円でやったのかな。始めは1万円でもと思ったんですが、さすがにあまりいいものがないことと、美術品を買うという行為はある程度覚悟がいることなんですよ。始めて美術品を買うってことはルビコン川を渡るようなもので、ある意味日常的な行為ではないだけに、それを一回やることによって「なんだ、買えちゃうんじゃない」ということになる。それがまた買いたいという気持ちにつながると思うんです。

Q 北斎は18歳から集めていたわけですが、元々骨董の世界に入ろうと思っていたのですか?

A いいえ、僕は大学を出て1年はサラリーマンをしていたんです。外国と貿易をするような仕事がしたかったものだから、中堅の貿易商社で。そこにちょうど繭山龍泉堂さんからお話があって。僕は始めから独立を前提で入れてもらいました。いろいろ無理をきいて下さり、今でも感謝しています。

Q 始めにこれだけのものをどうやって集めていかれたんでしょうか?

A うちの親父はたまたまコレクターだったんです。でもうちの親父は厳しい人で自分のコレクションを僕には1点もくれず、全部出身地の山口県に寄贈したんです。それで県がそのために美術館を作ったんです。山口県立萩美術館 浦上記念館といって今年で15周年なんですけど、丹下健三さんの建築で立派なものです。だから僕は何にももらっていないんです。でもぐれずにここまでやってきたんです(笑)。時代背景もあったし、それぞれやり方もあったし、誰でもそうだけど一生懸命やって、親はものをくれなかったけど、コレクター仲間を紹介してくれたりそういうことはあったですよ。それは感謝しています。それに当時は香港の市場が活況を呈して、ものがたくさん流出したんですよ。

Q では小さい頃からいいものを見る環境があったというわけでしょうか?

A それは大きいですね。小さい頃から好きだったかというわけではないのですけど、うちの親父が「これどうだ」って意見聞くわけですよ。で、平気で値段まで言うんですよ。始めは絵から入った人なんだけど、そのうち古美術になって。だからそういうものは小さい頃から自然に見ていたというのは大きいですね。プロとしての見方は繭山龍泉堂さんに入ってからです。全然見方もちがう。でも当時のオーナーに言われたことですけど、少しアマチュアの部分を残さなくちゃいけないというようなことを言われましたね。それはものの見方だと思うんですよ。甘く見るんじゃなくて、少し引いてみるというか、プロというのは転んでも損をしないようなことを絶えず考えますよね。でもそれだけじゃ逆に小さく固まっちゃう可能性があると僕は解釈したんです。だからいい師匠に恵まれ、いい仕事と内容を広めるという方針を受け継いだと思っています。
だからどういうお店で修行するかというのは大事だし、お客さんの立場に立つとどんなお店で買うかということがすごく大切です。別にこのお店で、と決めることはないと思うんですが、ただ少なくとも始めは、目がちゃんとしてくるまでは信用できるところで買って、ちゃんとしたナビゲートをしてもらってやっていく方がよいと思います。

Q 自分の中での基準がはっきりしないまま色々見ていくと、ということですか?

A そう、逆に京橋とか日本橋は高いから同じようなものがこっちの方が安いですよなんていう骨董屋さんがいるかもしれない。掘り出したつもりが掘り出されちゃったなんていうひどいこともありますから。
今年の初め、週刊現代で美術特集をやったんですが、僕もそこに載ったんです。コンセプトは美術館にもあるようなものを売っていて金額を開示してもいいところということで結構ハードルが高かったんですけど。すごく面白かったのは、買いますという電話は無かったけど、「同じものがあるから買ってください」という電話が結構ありました。同じ物は無いはずなんだけどな(笑)。それで写真なりデータなり送ってもらうと、どこが同じなんだと思うようなものがばかりなんです。たくさん持っている人の場合、その中の5点、6点がだめだったら全部だめなんです。面白いことに混ざらないんです。それは世の中でいかに変なものを買っている人が多いかということです。そこで「骨董屋って悪い人ばっかりだよね」と思ったら大間違いで、確かにそういうものを売っている人がいるんだけど、買った人も同じぐらい悪い。だって目もないのに掘り出してやろうと自分の欲に負けているのだから。僕が言っているのはね、高級店で値段も見ないで目をつぶって買えということではないんですよ。どの業界でもそうですが、ちゃんとしたころもあればちゃんとしていないところもあるんです。でも一緒くたに見るでしょ、人は。昔から日本では骨董屋なんていうのは泥棒と強盗の隣にいる骨董屋と言われたぐらいですから。でも欧米に行くと美術商は憧れの商売なんです。だからといって彼らの方が目が上とかそういうことではないんですけれども、偏見というのがありますよね。
日本人は美術品は好きでも、売買になるとある意味汚らわしいんじゃないかみたいな、そこで儲けるのは良くないのではないか、そんな風潮もありますね。値打ちのあるものが動く時というのは、お金も動くだろうし、逆に言うとちゃんとした人が間に入らないとおかしなことになっちゃう。例えば素人さん同士が取引するとするでしょ。間に美術商が入らない分手数料がかからないと思ったら大間違いで、両方善意なのに実は物が悪かったとしたら二人の友情も全部壊れちゃうこともありえます。だからそういう時は行司役としてでも間にプロを入れた方がいい。若干手数料を払ったとしても、正しいものを適正な価格で動かさないと行けないと思います。
何の世界も専門家がいますが、同じ本物でもピンからキリまであるわけです。あと市場の評価、流行廃りもありますし、それらはちゃんと専門家が適切な情報を持っているわけです。そういうことをもっと世の中の人々に知ってもらいたいですね。

Q どうしても外から見ると本当にその価値があるのかとか、結局その人がつけているだけなんじゃないかという偏見がすごくありますよね。

A そうですね。無知なるが故に疑いも多いし臆病になるし、売ってもそうだし買ってもそうだしね。それは不幸なことですよ。小林秀雄は、「美は信用であるか。そうである。」と言っています。全くそうなんです。だから東京アートアンティークにしても、アートフェア東京にしても、東京美術倶楽部にしてももっともっと社会的にいい意味でアピールして内容も開示することは必要だと思っていますよ。それは利害じゃないですよ。ちゃんとしていない人たちをなくすようにしないと。
僕はお客さんを目利きにした方がいいと思うんですよ。そうしたら我々も楽なんです。お客さんがいいですねって自分でいってくれたら一番いいじゃないですか。昔からいいコレクターといいディーラーというのは良い関係にあるものなんです。双方が必要なんです。

Q 最後に東京アートアンティークにお越し頂く皆さんにメッセージをお願いいたします。

A 美術館のようにガラス越しではなく見ることができて、これどういう物ですか、とかもちろん値段も含めて、普通の礼儀で接したらちゃんとしたお店は答えるしそれでいいと思うんですよね。買う買わないというのは次の段階で、本当に好きな人が来てくれたら僕らも嬉しいんですよ。
この間、テレビでやってたらしいんですけど、銀座の画廊で値段を聞いたら耳元でヒソヒソってやるんだって。高ければ高いで何億でも言えばいいんです。安ければ安いで言えばいいし。ヒソヒソ、コソコソが一番良くないですよ。この作品はこういう理由で3億でございます、これは5万円でございます、でもこういう見所がありますってそれを言わないといけませんね。
自分の好みの物を探すということですね。聞きたいことはお店の人に尋ねて、作品と親しくなることです。次に美術館で似たものを見つけると嬉しくなりますよ。僕は美術品を知ってるのと知らないのとでは、知ってた方が絶対にいい得だと思うんですよ。心の栄養にもなりますしね。若い人でも、今は買えなくても、将来買うようになるかもしれないし、もっとロングスパンでものを見るということが大切ですね。好きな人とならお話ししてても楽しいですしね。

たくさんのお話をどうもありがとうございました。
(2011年3月)

浦上蒼穹堂

東京都中央区日本橋3-6-9 箔屋町ビル3階

http://www.uragami.co.jp/

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