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店主インタビュー 古美術 ささき vol.2( 2012 年)

古美術 ささき

佐々木一氏

Q)今回ご紹介いただけるのはどういった美術品でしょうか?

A)蒔絵についてお話しようと思います。こちらは江戸時代に作られた棚でして、随所に色々な技法が使われて制作されています。

Q)普段見る蒔絵と違って質感がしっとりしている感じがしますね。

A)そうです。古いほどしっとりしています。

Q)それは使い込んでいるからですか?それとも技法の違いでしょうか?

A)技法もそうなのですが、長い年月の間の紫外線等の影響もございます。この棚は内側と外側でずいぶん色が違うでしょ?このように古びを帯びてきて、銀の金具も元々はピカピカですけれども、年月とともに落ち着いて来ていますね。蒔絵のいいものは見えない所に贅を凝らしています。日本の特徴ですね。

総梨地 松竹梅蒔絵 ちがい棚 江戸中期頃

Q)この蒔絵の金はずいぶんと盛り上がっていますね。

A)そうです、これは高蒔絵というものです。あと、このような細かい切り金を入れたり、金の色を変えたり、この細い金線は漆で細い線を描いて、その上に金粉を蒔きます。ですから、いかに細い線が描けるかによって善し悪しがわかります。漆は粘着性がありますので、それを細く描くのは難しいわけです。こういう細かで高度な蒔絵は今ではもう少なくなってきております。そしてその道具もないんですね。蒔絵の上等な筆が一本何十万とするんですが、その筆はこくそ(穀倉)鼠が宜しいのですがいないので作れないんですね。熊鼠の一種なのですが、そのたてがみというか真中の毛だけ抜いて作るんです。作る職人も動物もいなくなっているんですね。今はもう琵琶湖の葦の原っぱに住んでいる鼠を捕っていますね。

漆も国産は0.5パーセントくらいしかないですね。あとの95.5パーセントは中国からの輸入ものです。日本では補助を受けて、今は浄法寺という二戸で作るものがほとんで、そこには漆掻きの職人がいますけれども、とても入手しづらいものなのです。価格も10倍ぐらい違います。そういった貴重なものです。金も丸粉等色々と加工して使いますがそれも東京では1件になり受注生産しています。製作出来なくなった種類もございます。蒔絵は乾かしては研ぎ、また漆を塗り、乾かすの繰り返しですのでこの扉1枚完成させるためには何ヶ月もかかるわけです。

Q)これは何に使う棚なのですか?

A)これは座敷で使うちがい棚ですね。松竹梅の文様です。一度海外に流出して戻って来たものでして。日本だと一年中出しっぱなしはしないのですが、海外ですと明るい所に飾ったままですので、戻ってきた作品は紫外線による風化が激しいですね。

Q)こちらの上にある箱は?

A)これは江戸時代の化粧箱です。もっと色々ありますけれども、その化粧箱の中の一つです。おしろいが入っていたりしました。これは梅がない松竹ですね。細い線で描かれていますね。

Q)当時のお値段と今のお値段では大分違うものなのですか?

A)ええ、大分違います。昔の方がずいぶんと高かったですね。金銀等の材料も高かったですね。今は作家が丹精込めて箱を造ると、人件費と材料費と合わせて三百万円くらいかかるものなのですが、それが三百万円で売れるかというと、なかなか難しいですね。ですから作家活動も難しくなってきてます。蒔絵は分業で、木地屋職人、下塗り職人、上塗り職人、蒔絵師とおりますので、相当なコストと時間がかかるわけです。景気が悪くなるとどんどん衰退していってしまうんですね。

Q)蒔絵の善し悪しを判断するにはどういった所を見れば良いでしょうか?

A)時代によっても違いますが江戸時代ですと技法、如何に手の込んでいる作か、と言うのもあります。後は材料ですね本当の金のように見せて描いているものもあります、ですから本当に良い材料を使っているかどうかですね。絵の線の細かさも判断材料になりますね。あと時代によって使われている技法が違います。桃山になると現代では使われていない技法が使われています。江戸時代からはそう変わらないのですが。

現在は蒔絵の良いものでも名前がないものでしたら割と安く手に入ります。そういうのをお求めになって楽しむというのも一つですね。家に飾ると奇麗ですしね。蒔絵は景気に左右されやすい商品なのです。華やかなものですから、昔から景気が良いと高くなりますし、景気が悪いと安くなります。昔はほとんどが注文で作らせたわけですから、お金をかけて良いものを作れたんです。今は良い材料、道具も少なくなって来ていますから、行く末が心配ですね。

こういうのを果物の梨の肌みたいだから梨地というのですが、梨地は金を全体的に蒔いています。この硯箱は表はシンプルですが、裏をうんと豪華にしています。こうやって楽しんでいますね。羽織と一緒ですね。裏地にお金をかけるように。

こちらは鼓ですけれども、うちで扱うのは桃山から江戸時代までですね。

Q)鼓は実際に使われるものなのですか?

A)ええ、実際に使うものです。鼓はプロが使えるものは江戸中期までのものです。それから後の明治とか現代のものは良い音が出ないので使えないですね。どういうわけか鳴らないんですね。今コンピュータ技術がこんなに発達していて、同じ採寸をして作っても鳴らないんです。革は50年から120年くらい経ったものが使えます。新しい革は固くて使えないんです。気の遠くなるような話です。

お稽古用ですと20万円くらいでありますが、プロが使うものは胴が50万円から、革も50万円で100万円くらいしてしまいますね。図柄も色々あって、語呂合わせで描かれているものが多いですね。例えば大根の絵が描いてあるものは、大根は「大きな根(大きな音)」と書きますでしょ?大きな音が出ますよ、ということなのです。茄子の絵が書いてあるものは、茄子というのは全部身がなるじゃないですか。ですから、「これは鳴りますよ」という意味です。昔はそういったしゃれたセンスでものを作っていたんですね。

Q)佐々木さんにとって蒔絵の魅力や好きな所はどこにあるのでしょうか?

A)そうですね、自分がどれだけ努力してもこれだけ精緻なものを時間をかけて作れないな、という憧れがあると思うんですね。そして見ていて奇麗で楽しいというのがありますね。切り金などは漆を塗った上に一つ一つピンセットで置いていっているわけです。失敗は出来ないですし、それは大変な手間ですから。

蒔絵をやっている人は陶芸家がうらやましいって言いますね(笑)。蒔絵はいくら頑張っても年間に何十点しか作れないわけですから。大変な仕事だなと思いますね。それを芸術品の域まで高めないといけないですから、大変な鍛錬が必要です。それに漆、蒔絵の事を「ジャパン」と言うように日本が世界に誇れる工芸でもあります。そういった所が魅力でしょうか。

お忙しい中有り難うございました。

古美術ささき
店主 佐々木一氏にお話を伺いました。

(2012年4月)

〒104-0061 中央区銀座1-14-7 吉澤ビル1F
http://www.kobijutsu.ne.jp/

梨地梅蒔絵 三階菱紋入り鐙 江戸後期

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