2011.4.5

店主インタビュー かどまつ誠心堂

門松忠氏

Q ご主人が美術に関わるようになったきっかけを教えて下さい。

A 11年間、昔でいう丁稚奉公ですけど、お店にいました。それを経て独立開業しました。今年で33年目になります。

Q 初めから古美術だったんですか?

A そうです。学校を出てすぐ。

Q 元々ご興味があったんですか?

A 幾分興味がありましたね。そんなにどうのこうのというほどではないですが古いものが好きで、焼き物などに興味がありましたね。特に歴史とか。歴史を見ているとやっぱりその時代のものを見てみたくなりますよね。

Q 独立されて始めはどちらで?

A 初めは自宅でやっていました。自宅兼お店という形で。東京へはこれで6年目です。

Q 主に日本の品物が多いのですか?

A そうですね、日本画と日本の美術品ですね。

Q 一番力を入れているのは何でしょうか?

A 棟方志功のものはいつも置いています。あれもこれもやってもなかなか極めることが出来ませんので、絵は棟方志功と山下清、それから竹下夢二。あとはあまり扱っていません。的が絞れなくなっちゃうんですよね。この三人で一番力を入れているのはやはり棟方志功です。

Q 棟方志功は海外でも人気があるのですか?

A そうですね、日本人としては珍しく藤田嗣治と並んで人気ありますね。山下清もファンの方は多いので良いものが出たときは求めるようにしているんです。迷いが来ますので、海外のことは余り深くは意識しないようにしています。例えば今はこういうのが主流だとか、時代によって変わってきますよね。でもそれは自分にとってあまり関係のないことだと思っていて、自分は自分の信じた道を行けばいいと思っています。自分の思った通りに生きて失敗したらそれはそれでしょうがないと思って割り切っています(笑)。あまり流行に力を入れますと流行は去って行きますので、ほんの少しのお客様しか見えませんけど、自分はそれでいいと。あまり浅く広く考えないようにしています。

Q 絵画以外ではどういったものを扱っているのでしょうか?

A 古陶磁器ですね。柿右衛門ですとか。あと作家物で河井寛次郎はかなり力を入れています。というのは、棟方志功と関連性の深いものですし、棟方志功と河井寛次郎、柳宗悦、浜田庄司とか民芸運動の方は関連していますのでね。棟方志功が好きな方は河井寛次郎浜田庄司が好きと言う方が多いです。つながっているんですよね。何でもかんでも扱うんじゃなくて、少しレベルの高いものに絞って扱うようにしています。

Q 個人的に集めているものはありますか?

A いえ、ものすごく凝り性なので、何もありません。自分で自分の性格を少しはわかっていますので(笑)、それをやってしまうと運転資金が動かなくなってしまいますでしょ。修業時代から自分の趣味に凝るなという教育も受けました。そうでないと、この商売では、運転資金がそこに凍結するから。商品に惚れ込んでもいいけど、抱え込むなと言われましたね。要するに美術品と僕たちは仲人みたいなものですから、こちらからこちらの人に受け渡しをする仕事だという教育を受けました。

Q 修業時代も同じものを扱っていたのですか?

A いえ、自分で長年やっているうちに自分にはこれが合う、合わないを探していって自分流を編み出していかないと、人の物まねでは絶対に普通で終わっちゃいますので。自分の理念として、この商売では自分流をあみ出さなきゃやっていけないと思っています。

Q 当初から棟方志功を扱っていたのですか?

A 昔から好きでしたね。ですから今は棟方志功の名品が出ると、「よし」と言って買えるようになっただけ幸せだな、と思っています。でもあまり未練を持たずに、仲人だと思っていますので、大事にして下さる方に優秀な作品は喜んで譲ります。それでまたいずれ何十年か先に、今扱っているものは昔売っておいたものを手放してもいいというものをまた分けていただいて。作品というのは限られていますので、新しく流通で出てくるものもありますけれども、自分で気に入ったいいものというのは、あそこに収めてあるということがわかっていますので、それをまた譲っていただいて、またこちらの方に入れ替えをするんですよね。なかなか良いものというのは、知らない所からぱっと出てこないんですよ。

Q 出てくることもあるのでしょうか?

A 何年かに一度あります。そういう時には間髪入れず気に入ったと思ったら迷わずに、値段のこともあまり気にしないようにして買うようにしています。それはまた自分と同じか自分より高い知識のある方に嫁いで行くものですよ。

Q 娘さんのようですね。

A そうですよ、本当にそういうものです。だから知らない所にあまり勢いで売りたくないです。「これいいね、2回払いになっちゃうけどいい?」と言われたら、わかった、そうしましょうって(笑)。それでまた手放すときはこちらに譲って下さいねって、なるべくそういう形になるようにしています。どこにあるかわかっていた方がいいじゃないですか。お客さんって絶対成長されていきますからね。成長すると前のものを手放してもっと良いものを求めるようになるんです。僕らも成長するようにお手伝いをさせていただくのも仕事ですし。

Q いつもお忙しい時にお電話してしまっているようなのですが、出張など多いのですか?

A そう(笑)。いつも電話いただく時、ちょうど交換会と言って一秒も脇目を振れない時が多くて。冷たいと思われるかも知れませんが、交換会というのは、すごいスピードで行われるもので、絵なんてぱっと表を向けて「はい、ものは保証でどこどこにシミが何個あって...」と始まったら1秒にも満たない時間でこれはいくらまで買うかとか、今150万だけど200万までなら僕は買おうとか、そういうことを考えなきゃいけないから、自分の決断力と俊敏な能の判断が必要なので、のんびりは出来ないのです。だから水分も前の晩からあまり摂らないようにして食事も調整しています。3時間か4時間トイレに行かないように体調を整えておかないと、トイレに行っている2、3分間の間に自分のチャンスのものが出るかもしれないでしょ?ですからその時にトイレに行ってたら自分は商売の勝負に負けることになるんです。ですから食うか食われるかの時だったんです、冷たい対応になってしまったかも知れません(笑)。ちゃんとこうやってお会いした時には余計なこともしゃべるかも知れませんが、僕らの世界というのはそういう世界なんです。ですから僕は仕事とオフの差がすごく激しいんですよ。休みの日は布団をかぶって寝ています(笑)。それでまたスイッチを入れて。最近は日曜日にもよくお店を開けているんですよ。僕らは自給自足みたいなものですから。この辺りの同業者の方は皆さんとてもユーモアがあるし、人格も教養もありますしね、すごく素晴らしい方ばっかりが日本橋・京橋にいます。日本の頂点の美術商が集結した所がここですよ。だけど仕事が厳しいですから、ボクシングや空手の試合をやっているようなものなんです。

Q 交換会ですごいものが出たな、ということはありましたか?

A そりゃありますよ。何億というものがでます。何千万というのはざらです。今は中国の古陶磁器です。本当に良いものは景気が悪いとかあまり関係ありませんね。そういうのは一年に何度も見ます。もちろん分野分野でそういうものがあります。

Q 景気の影響はありますか?

A ありますし、今はとても悪いですよ。オイルショックとか色々経験してきましたが、日本美術は今が一番低迷しています。でもそれは個人個人のやり方です。

Q 最後に東京アートアンティークにお越しになる方に一言メッセージをお願いします。

A 期間中はお店にいますので、気楽にお寄りください。棟方志功と山下清と竹久夢二を出していますし、狭いから全部は展示できないけれど、他にどんなのがあるのって聞いていただければお出ししますので、すぐ出せるようにしておきます。

(2011年4月)

かどまつ誠心堂

東京都中央区京橋2-11-9 西堀11番地ビル1階

※2013年に日本橋から京橋へ移転しました。

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