2011.4.5

店主インタビュー 平野古陶軒

平野龍一氏

Q 平野さんは何代目になるのですか?

A 私で三代目です。

Q 小さい頃から美術品に囲まれて育ったわけですね。

A そうですね、生まれた時から美術品はありました。でも幼少の頃はそれがどういうものなのかわからないまま育っているので、意識するようになったのは、高校・大学になってから、父が美術品を扱う仕事をしているということと、祖父の代から続いているということを強く意識し出しました。ただ私は長男だったので、継ぐというのは使命のように言われていました。ですから子供の頃から良い美術品があれば父は見せてくれたし、触れることもありました。父が何をしていたのかはわからなかったですけど、かなり幼い頃から家業に対して興味は持っていました。それが年を取るごとに逆にあまり継ぎたくないというか。誰でもそうですけれど(笑)。海外に行っていたので、できれば海外で職に就くことを希望していました。大学はマーケティングをしていましたので、そっちの道をやりたいと思っていました。
日本の大学に戻って来て、それから彌生画廊さんに修行に行ったんです。私は古美術商ですよね。その私を画廊に入れたというのは、本来だったら、テクニカルな意味で言ったら合致しないかもしれないけれど、美術品って一体なんだろうというもうちょっと本質的なものをそこで勉強して、その後技術を身につければ、とても良い仕事ができる。だけどテクニックだけをいくら学んでもそれはちゃんとした仕事にならないから、その画廊で何が美術品で一番重要なのか学んで来なさいと言われて、実際とても良く教えてもらって、それが今でも一番大切にしていることでもありますし、当時あそこで仕事をしていたという自負がすごく活力になっています。

Q 絵画も扱っておられますが、それは昔からなのですか?

A 父の代からですね。父の時は近代と骨董だけだったんですが、私は何でも扱うんです。そこも独立する時に迷ったことなんですが、老舗がついているのは中国古美術と朝鮮古美術で、そこにちゃんとフォーカスして仕事をした方が良いんじゃないかと思ったんですけれども、それも彌生画廊に相談しに行ったんです。面白いことを言われて、お金で考えるんじゃなくて、高い安いとか美術品のカテゴリー分けじゃなくて、自分の価値観で良いものというものを集めてお店にすれば良いと。それをきちっとやれば、何十年かやることによって、洗練されたものになって行くはずだから、やりたいと思うものをやればいいんだと言われて何でも屋になったんですよ。でもそれは崇高な意味での何でも屋なので、それをうちの個性として美術商をやりたいんですよね。

Q 平野さんの展示は新しいものと古いものが自然に一緒に展示してありますね。

A いわゆる古美術商というものにとらわれるんじゃなくて、今はこういう風なものを合わせれば自分の生活が豊かになりますよ、という提案をするべきではないかと思っています。昔のスタイルが悪いのではなくて、生活スタイルが明らかに変わっているのに、我々の仕事の仕方が変わらないのはおかしいと思ったんです。どうやったらお客さんたちに私が思っていることを伝えられるか、そのためのステージが必要なわけです。だからこのお店は自分で全部設計しました。壁紙も絨毯も、溝も何センチなのか、大工さんと相談しながら。そこで自分が良いと思っているものを置いてお客さんをお迎えする、というのをどうしてもやりたかったんですよ。美術品を我々が売買するにあたって、ビジネスや物だけじゃなくて、プラスアルファ楽しんでもらいたいんです。例えば、花瓶一つを買ったときにそれをどこに飾るとか、どういう絵と合わせるとかその範囲を広げて欲しいと思っているんです。教科書で見たような、床の間に掛け軸があってというのではなくて、例えばセザンヌの水彩を軸装にしてかけてみるとか。そういう新たなものをやることによって文化が生まれると思ったので。それがやれるのは、我々が一番近いわけですから。だからすごく苦しいですけど、すごく楽しいです。

Q 古い物が古く見えないですね。

A そうなんですよ。亀治郎さんがそのことを新聞に書いてくれて。本当に古いものは輝きを持っていて、古めかしくは見えないと。それをどう伝えるかが我々の一番重要な所なんですよ。楽しむと言うのは漠然としているので、私はそれを具体的に何が楽しいかを伝えたい。エンターテインメントではなくて、アイディアをいっぱい作らないと難しいと思います。と同時にそれをやるためには、人に負けないような知識や経験は重要だと思います。それを補うために出来るだけ海外に行って、オークションや美術館に行ったり、本を読んだりするようにしています。それをベースにして新しいことをすればお客様は気にしてくれると思います。

Q いつも海外に行ってらっしゃるイメージがあるのですが、それは買い付けのためですか?

A 一番の目的は勉強です。圧倒的に作品の量を見られる。それを手にとれるし、同じ美術館に何回か行くことでも今まで気がつかなかったことに気がつける。あとはビジネスと情報。中国美術は今世界市場ですから、世界で何が起こっているのか電話やメールで聞くよりも、現地に行くのが一番良いわけですよ。そしてコミュニケーションをそこで取ることで他の人よりも大きなアドバンテージができる。だから私は必ず現地へ行って人と話すことを重要視しています。

Q 時間的にも美術以外の趣味は難しそうですね...。

A いや、僕は仕事が出来ないくらい趣味は沢山あるんですよ。スポーツは全般やりますね。東京マラソンは完走していますし、今は結構泳いでいます。一年くらいは行っていないですけど、毎年スキーも行っています。ゴルフもしていましたし、学生時代はテニス部の部長でした。他には...篆刻とか。あとは読書も音楽も好きです。好奇心は自分で止められないくらい強いです。ホームページも自分で作っています。ものを作ったり新しいことをするのがとても好きなので、寝ないでやったりすることはよくあります。当然仕事はきちっとやりますけど、それによって人生を棒に振っているという感覚は全くないです。仕事も楽しいですし、人とお酒を飲むのも、海外で勉強するのも、趣味をしているのも楽しいです。全部リンクしています。お金のことさえ考えなければ最高の仕事ですね。経営なのでそれは考えなくてはならないですけれど。

Q 骨董業界がこれからどのようになる、あるいはどのようになったら良いと思いますか?

A 私は若いので、若い人が活躍できるような場になって欲しいです。そのために私がするべきことはとても多い。今あるスタイルというのは、先人たちが作り上げて来た研ぎすまされたものなんです。その研ぎすまされたものをそのまま続けるにはより一層の努力をしなくてはならない。それは簡単にできることではないし、特にこれからは色々な困難があるので、同じことをやっていては研ぎすまされることはないわけですから、我々が新しいことを提案し、各お店で努力して行けばお客さんが判断すると思います。私は日本の骨董業界はとても良いシステムが出来ていて、上手く発展する形はあると思うんですけれども、ただ今のままでは難しいこともあると思っています。
業界を引っ張る力が私にあるわけではないですが、少なくとも何人かで同じ方向に走らないと、という危機感はあります。世界市場から見ると、日本の市場はとても小さくなりつつあるので、日本の技術力をキープしながら世界に出て行くということを考えても良いんじゃないかと思います。ちょっと話が難しくなってきました(笑)。

Q 真っ白い壁の骨董屋さんは珍しいと思ったのですが。

A 何故壁の色を白くしたかというと、お家の壁は白ですよね?物を見せるのに膨張色なので難しいと思います。でも、実際に飾られる場所と同じ環境で見せた方がイメージしやすいと言うのがまずあった。空間的に古美術ってちょっと暗いイメージがあるじゃないですか。でも私は心晴れやかになるようにしたいんです。我々は良いものを見ると清々しいな、と思うんですよ。そういうすかっとした気分を味わってもらいたい。ですからセンスを問われますし、取り合わせ方によって自分の知識もさらけ出すことになるので、いつも気を付けて取り合わせています。自由にやっているわけではないんですよ。

Q それを聞くと難しいイメージがあるのですが。

A それを紐解くのがプロじゃないですか。お客様にこうしろと言うのではなくて、こういう風にするにはどうすれば良いか柔らかく噛み砕いてお伝えすると言うのが私たちの仕事なんです。ですから、今度のギャラリートークの時は美術品を買った後、どういう風に取り合わせたら良いかとか、どう楽しめばいいかというのを伝えようと思っているんです。※
私は自分のディスプレイを、古陶軒っぽいと思ってもらえるようにしたいんです。ですから自分の中の一線というのはとても大事にしています。何を選ぶか、どういう作家と仕事をするかというのはすごく時間をかけますし、慎重になります。骨董は今ある価値観を正しく伝えることが仕事です。現代美術の方はまだ価値観になっていない価値を想像して行くことが仕事なので、全く違う分野なんですよね。だから同時進行できないんです。でも根底は古美術も近代もコンテンポラリーも同じなんです。お客さんは私たち以上に分けてはいないと思うんです。それをしていたのは我々業界の方で。

Q 最後に東京アートアンティークにお越しになる方に一言メッセージをお願いします。

A 我々が皆さんのところに近づいていって、ちょっと見てもらえませんか、という感じでこちらから距離を縮めたいです。それによって我々は自分たちの扱っている美術品の良さを上手に伝えたい。お客さんに扉を開いてもらうんじゃなくて、我々から扉をいて待っていますので、是非来て下さい。そうしたら自分たちの力で美術品の良さを易しく楽しくお伝えできると思います。何が楽しいのか発見していただきたいです。近所のお祭りに行くような感じで遊びに来て欲しいです。

お忙しい中ありがとうございました。

(2011年4月)

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